かねてからファーバーカステルのペンは一本欲しいと思っていた。世界最古・最大規模のドイツの筆記具メーカーで、えんぴつの長さ・太さ・硬度の基準を作った、歴史あるブランドである。
手に入れるなら、ボールペンや万年筆よりは、やはり鉛筆やシャープペンのほうが魅力的だ。
話は変わって、ぼくが好いている著名人のなかに、糸井重里さんがいる。ゲーム「MOTHER2」をプレイしてからずっと、糸井さんの見ている世界、感じているものに惹かれていた。
ブログを書きはじめ、ぼくも「物書き」と呼ばれる世界のすみっこに身をおいてからは、糸井さんの言葉にますます目を奪われていった。
ぼくにとって尊い人である糸井さんが、愛用している筆記具について語るインタビュー記事を目にした。そこで見たのが、モンブランのシャープペンシルだ。
これまでのすばらしいアイデアたちが、0.9mmのペン先から生まれたのだ。それを知ったら、ぼくもそのペン先から、なにか、ちょっと「人にいいモノ」を生み出したいと思うのだ。
鉛筆で書かれたものって、人はちょっと「軽く見る」ところがあるんですよ(笑)。一番は万年筆で、次にボールペン、みたいな。
鉛筆って、「下書き」の段階だと思わせるところがある。でも、その「軽さ」がアイデアの「モト」みたいなものを考えるときにちょうどいいというか。
筆が乗ってくると必然と筆圧が高くなったりとかするんだけど、0.9mmだとそんな時でも芯が折れないんだよね。それもまた、ちょうどいい。
…あ、まだ(シャープペンの)ラベルはがしてなかった(笑)
via: 糸井重里に聞く"クリエイターのメモの取り方" - メモは相談相手で「自分と向き合うためのもの」 (2) 糸井重里のクリエイションを支える「文房具」と「メモ」 | マイナビニュース
そこでぼくは、憧れていたファーバーカステルで、その思いを叶えることにした。手にとったのは「エモーション」と呼ばれるシャープペン。
1.4mm という太い芯も魅力のひとつだが、シガーのような流線型のボディも、梨の木のぬくもりも、銀色にかがやくクロームメタルも——そのすべてが美しさにまみれていた。
情緒。感情。感動。
新しい年を迎えて、ぼくにはいま胸に秘めている想いがある。その想いを表現するのに、うってつけの名前だ。
ぼくの指先から、ぼくのなかにある「なにか」を、「人に良いモノ」に生まれ変わらせてくれるのではないか。そんな期待をよせてしまう。
ファーバーカステル社製シャープペンシル「エモーション」
ファーバーカステル社のペン「エモーション」は、1.4mm という太い芯を備えたシャープペンシルである。
中央が太くふくらんだ形をしているのが特徴的で、中心に「梨の木」素材が使われ、クロームメタル製のキャップと首軸に挟まれたデザインをしている。
ゆるやかな曲線は、人がものを書くうえで、限りなく自然でいられるように設計されているそうで、たしかに手に持ったとき、すっと "なじむ" 感触があった。
カラーは「ブラウン」と「ダークブラウン」の2色がある。ぼくがこういった選択をせまられたとき、なるべく自然を感じられるものを選んでいるので、今回は「ブラウン」を選択した。
芯を出すときの仕草が独特で気に入っている。
ふつうのシャープペンでやるような「カチカチ」と音を鳴らす行為は不要。ペンの首軸をくるっとまわすと、まわした分だけ芯が出てくる仕掛けだ。
ぬるりぬるりと芯が出てくる感覚は気持ちよい。実用面を考えても、自分が必要とした分だけ芯を出すことができるので、便利でもある。
1.4mm という太さに抵抗を感じる人もいるかもしれないが、こいつが意外と万能なのである。
いやたしかに、細かい文字は苦手だ。小さな手帳に細かく文字を書きたいのであれば、それはこのペンに託すべき仕事ではない。
だがぼくは、あえて手帳に、この太いペンで挑む。
細かく書けないかもしれないが、逆に大きく書けるのが楽しい。手帳に余白が空くことを怖がるような小心者のぼくには、これぐらい大味に書けるペンのほうが似合っているのだ。
足りなくなった余白は、違う紙に書けばいい。ページを追加すればいい。それよりもぼくは、このペンからなにかを表現したくてたまらなくなってしまっているのだ。