今、ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)の経営状況がV字回復を見せているのをご存知だろうか。
私も一度、USJに遊びに行ったことがある。もう4年は前のことだろうか。元々東京で生まれ育ったこともあって、どうしても東京ディズニーランドと比べてしまい、その時は閑散とした園内が妙に印象的だった。
それなり楽しむことはできたのだか、正直「また行きたいなぁ」と思えるほどではなかった。
しかし、今の経営体制をいろいろと知った今では、また違った視点で楽しめるんじゃないかと密かに「行ってみたい」と思っているのだ。
そんな経営体制の変化には、一人のマーケティングのプロと、アイデアの力が関わっていた。
USJが陥った窮地
USJが開業したのは2001年度。その時は入場者数は1100万人を超えていたが、2010年度には約750万人まで低迷してしまっていた。
それが、2011年度は870万人、2012年度は975万人と2年連続で100万人以上伸ばし、2013年度は1050万人に達した。驚異的な伸び率である。
USJは2001年に大阪市に誕生したが、翌2002年は大きく落ち込んだ。アトラクションに許可量を超える火薬を使用していた問題などの不祥事が記憶に残っている人もいることだろう。
その後、最大株主だった大阪市の財政が厳しくなり、2004年に経営危機に追い込まれる。
経営危機を救った敏腕マーケッター
この窮地を脱するべくアサインされたのが、森岡毅氏だ。彼は過去に、日本ヴィダル・サスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ヘアケアカテゴリー・アソシエイトマーケティングディレクター、ウエラジャパン副代表などを務めた経歴を持つ。
彼が行った具体的な施策は非常に多い。例えば、
◆「映画のテーマパーク」というコンセプトを打ち破り、新キャラクターとしてハローキティ、ピンク・パンサーなど、映画以外のコンテンツを導入。新しい風を吹き入れた。(これには、今まで取り込んで来られなかったファミリー層の客を呼びこむ狙いがあった)
◆後ろ向きに走るジェットコースター「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~」の投入。
◆3.11の大震災後、自粛ムードを断ち切るために「キッズフリー(子供は入場料無料)」を敢行。
◆ゾンビに扮装したクルーをパークに放って、パーク全体をお化け屋敷にした「ハロウィーン・ホラー・ナイト」。
などなど。一部を抜粋してみても、なかなか奇抜なアイデアが目白押しである。
そう。今回のUSJのV字回復には、森岡毅氏のアイデアの力が深く関わっているのだ。
根拠のあるアイデア
森岡氏のアイデアの力はスゴい。それを駆使してこれだけの立て直し施策をしてきたのだから、さぞ奇抜なアイデアマンなのだろうと思うところだ。
しかし実のところ、そうではない。彼はマーケッターであり、彼が信仰しているのは数字の持つ力だ。
彼のアイデアには、根拠がある。
九十九里の砂浜の中から500円玉を掘り当てるような事はしないし、100m先のカップの中に野球ボールを投げ入れるような事はしない。
誰もが求める、アイデアの“神様”の正体。それは"確率"です。いいアイデアを生み出す確率を高めるため、私は常に"イノベーション・フレームワーク"を実践しているだけなのです。
via:連戦連勝! USJ、450億ハリー・ポッター実現への革新的発想法 なぜUSJはつぶれなかったのか?【2】:PRESIDENT Online - プレジデント
彼は、そのアイデアに根拠を持たせるために、フレームワークを使用している。
砂浜の中にある500円玉を当てずっぽうに探すのではなく、まず最初に「どの辺りに500円がありそうか、根拠ある理論を組み立てる」。そして「効果的な掘り方を考えてから、掘り始める」のである。
森岡氏が愛した2つのフレームワーク
良質なアイデアを出すために、彼は2つのフレームワークを駆使していた。
1. 数学的フレームワーク
2. 戦略的フレームワーク
1. 数学的フレームワーク
まず最初に行うのは、アイデアを当てずっぽうにしないための根拠探しだ。
彼は問題の原因を追求していく。その時、抜け漏れがあっては原因を探し当てることはできない。
そのために彼は100になる仮説を潰していくのだ。これはMECEと表現されることもある方法だ。
例えば、原因の追求のために「独身男性」「ファミリー」など当てずっぽうに属性で区切ってしまうと、「既婚女性」という被りが出たり「独身女性」という抜けが出たりする。
これは「足しても100にならない仮説」であり、原因の所在を見逃す可能性がある。
これを例えば、まず「男性」「女性」と区切る。これは足して100になるのでOKだ。そして、原因を探っていき「女性」に原因があったら、次に「0歳〜10歳」「10歳〜20歳」「20歳〜30歳」「30歳〜」と区切る。これも足せば100になる区切りだ。
100になる仮説を行い、その仮説を検証し、その結果から新たに100になる仮説を作る。
これを繰り返していくことで、抜け漏れのない原因究明ができるようになるのだ。これにより、アイデアの出し所を明確にする。
2. 戦略的フレームワーク
私も仕事で使うのだが、どんな物事も「目的」があり、それを達成するために「戦略」を組み立て、そして「戦術」に落としこむのが基本的なフローだ。
ここでカンタンに「戦略」と「戦術」の違いについて。普通、「戦略」と言ったら「目的を達成するためのシナリオ」であり、「戦術」と言ったら「具体的な方法」を指します。
森岡氏の場合は少し解釈が違って、「戦略」は「必要条件」であり、「戦術」は「アイデア」なんだとか。
どういう事か。
例えば今回のUSJ立て直しに当たっては、経営の立て直しが必要になった。そこで彼が導き出した戦略が「小さな子連れファミリーを獲得すること」だった。
そしてこの戦術を噛み砕いて具体化したのが、以下のリストだ。
・「USJは小さな子ども連れは楽しめない」という消費者のイメージを覆すもの
・数割増えるであろう集客に十分な収容キャパがあるもの
・設備投資資金の予算内で実現できるもの
・既存資産との相乗効果で経営効率を高められるもの
以上の物が戦略である。これを逆に考えると、上記の内容を満たした戦術が行えれば目的を達成できるということなのだ。
こうした、ある種の制限を設けることはアイデア発想を広げるために非常に重要だ。
また、こうした「目的→戦略→戦術」という流れを作れば、方向性を間違うことがなく、当てずっぽうなアイデアではなくなる。根拠のある、より具体的で現実的なアイデアを発想することができるのだ。
USJの経営立て直し施策は、まだまだこれからも続いていく。その中で、森岡氏の手腕がこれからどのように発揮されていくのか、これも楽しみの一つになるだろう。
あとがき
アイデアって、突拍子もないものが良いわけじゃない。根拠のない突飛なアイデアは、それはもうアイデアではなく、ただ "ちょっと人と違う考え方をしたいだけ" の人になってしまいます。
クリティカルに問題を解決できるアイデアを発想するためには、シッカリとした根拠が必要なんですね。
それでは、今日はこの辺りで。