イチローさんの言葉には、いつも重みがある。『実績を残し続けた人だから』と言うのもあるのですが、言葉の真剣さや生き方の真っ直ぐさが、そのまま言葉に乗っかった感じがするんです。
日米通算4000本のヒットを打ったイチローさんですが、そのインタビューでも私の心は強く打ちつけられたのです。「自分の生き方を見直さなければ…」と強く、強く思うほどに。
自分以外の人たちが特別な瞬間を作ってくれる
(「率直な感想からお願いします」と聞かれて)…(中略)…4000と言う数字よりも、あんな風にチームメイトやファンの人達が祝福してくれるとは、全く想像していなかったので、その事ですね。それが深く刻まれましたし、結局、4000という数字が特別なものをつくるのではなくて、記録が特別な瞬間を作るのではなくて、自分以外の人たちが特別な瞬間を作ってくれるものだというふうに強く思いました。
自分が成し遂げた偉業に対して、常に謙虚で、周りの方々への感謝の気持ちを素直に表現できる。そんな男に私もなりたい。
特に「記録が特別な瞬間を作るのではなくて、自分以外の人たちが特別な瞬間を作ってくれるもの」という言葉は、そう簡単には出てこない。私の意訳は控えますが、本当に「言い得て妙だな」と深く感銘を受けた言葉でした。
(「みんながダグアウトから出てきた時、驚いていた」と言われて)…(中略)…僕のためにゲームを止めて、僕だけのために時間を作ってくれるという行為はとても想像できるわけがないですよね
人への感謝を含んだ最高の喜びの表現だと思います。
8000回以上は悔しい思いをしてきている
(「タイ・カッブ、ピート・ローズしかいない4000という大台」と聞かれて)…(中略)…誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと、8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね
嬉しい事ばかりではありません。喜ばしい時は一瞬です。その一瞬を得るために、どれだけの失敗と後悔と悔しさを握りつぶしてきたか、想像もつきません。
ですが、人生は、多かれ少なかれ、みな同じようなものです。ある一瞬の笑いを得るために、その幸せを得るために、どれだけの事でも耐えうる。そういう決意と覚悟が、プロなんだと感じます。
そのストレスを抱えた中で、瞬間的に喜びが訪れる、そしてはかなく消えていく、みたいな。
これからも失敗をいっぱい重ねていって、たまに上手く行ってという繰り返しだと思うんですよね。
どんなヒットも僕らしくなると、レフトスタンドへのホームラン以外は
(「きれいなヒットで決めた」と言われて)どんなヒットも僕らしくなると、レフトスタンドへのホームラン以外は、僕らしいと思っていましたけど、こうやって皆さんが注目してくれている中で、内野安打とかだと、また文句を言う人もいるし、良かったと思います
イチローさんらしい物言いで、なんだか微笑ましかった。でも、その中で「どんなヒットも僕らしくなる」と言う言葉には、スゴく心が打たれた。
イチロー選手と言ったら、内野ゴロとか外野の前にキレイに落ちるシングルヒット。そんなイメージがある。けれど、それは私たちが勝手に作り上げた『像』であって、イチロー選手自身は直向きに狙った結果のヒットならそれが全て自分らしいと思っている。そんな気がした。これは私の解釈だけれど。
失敗をいっぱい重ねていって、たまに上手く行ってという繰り返し
(「これから見据えていくもの」と聞かれて)これからも失敗をいっぱい重ねていって、たまに上手く行ってという繰り返しだと思うんですよね。何かを、バッティングとは何か、野球とは何か、ということをほんの少しでも知ることが出来る瞬間というのは、きっと上手く行かなかった時間とどう自分が対峙するかによるものだと思うので、なかなか上手く行かないことと向き合うことはしんどいですけど、これからもそれを続けていくことだと思います
嬉しい時、楽しい時。そういうものに目が向くのは人として当然で、みんな自分の失敗や苦難には目をそらしたがる。目を伏せたがる。
しかし、物事の本質は失敗や苦難の中にあり、それと対峙・向き合った時にこそ、その本質にほんの少し触れられる。それが本物の『勇気』という言葉の意味のような気がします。
毎日同じことを繰り返す、厳密に言うとすべて同じではないんですけども、そういうことで自分を安定した状態にもっていくというテクニックはあると思います。…(中略)…特によくない結果だったり、難しいゲームの後というのは、気持ちを整理することはとても難しい状態にあることがあるので、いつも続けていることをまた続ける、その日も続けることが時々、しんどいなあと思うことがありますけど、そこは頑張りを見せるとこでしょうね。それは自分で続けてきたつもりです
自分が成長しているとか、前に進んだってことを明確に感じることはできていないんですよね
(「考えることが野球と話をしていたが、年齢を重ねるにつれてどう成熟していったか?」と聞かれて)自分は野球選手として、人間として成熟できてるかどうか、前に進んでいるのかどうか、ってことはいまだにわからないんですよね。そうでありたいということを、うーん、信じてやり続けることしかできない。実は、今までは自分が成長しているとか、前に進んだってことを明確に感じることはできていないんですよね。
イチローさんほどの選手が言うのだから、私みたいな青二才が「いやぁ成長したわ〜」なんて、おこがましくて口にもできない。
実感はなくても、それを信じて進むしかない。こんな苦しいことが他にあるだろうか。それでも前に進み続ける。そんな強さを、私も身につけられるだろうか。
満足を重ねないと次が生まれないと思っている
(「他の選手はどこかで満足している。イチローさんはない?」と聞かれて)いえいえいえ、僕満足いっぱいしてますからね、今日だってもの凄い満足してるし、いやそれを重ねないと僕は駄目だと思うんですよね。満足したらそれで終わりだと言いますが、とても弱い人の発想ですよね。僕は満足を重ねないと次が生まれないと思っているので、もの凄いちっちゃい事でも満足するし、達成感も時には感じるし、でもそれを感じる事によって、次が生まれてくるんですよね。あの意図的に、こんな事で満足しちゃいけない、まだまだだと言い聞かせている人は、しんどいですよ。じゃ、何を目標にしたらいいのですか、嬉しかったら喜べばいいんですよ。と言うのが僕の考え方ですけどね
イチロー選手は、自分の感情と感覚にとても素直なんだと思います。普通の人だと、感情を押し殺したり、自分の感覚に自信を持てなかったりして、自分に嘘をつく。
でも、それは『弱さ』であって『強さ』じゃない。イチロー選手の言う『強さ』は、自分を信じて貫いて、耐えて忍んで、素直に真面目に謙虚に生きることなんだと、私はそう思います。
あとがき
彼の言葉を聞く度に、私の言葉の重みを感じ、そして強さを感じます。そんな彼の言葉を私自身も飲み込んで、自分の信条へと育て上げられたらいいな。
▼ヒットの瞬間と、チームメイトからの感動的な祝福▼
▼今回のインタビューの参考元。全文気になる方はコチラからどうぞ▼
日米通算4000本安打達成のイチローが会見(全文掲載)/一問一答 (MLB.jp(GyaO!)) - Yahoo!ニュース