ぼくと妻は、ベタな言い方をすればコインの裏表のように、正反対な性格をもっているところがある。
たとえば妻は美味しいものを先に食べる派だが、ぼくは美味しいものを取っておいて最後に食べる派だ。
妻は人とのコミュニケーションを大切にしていて、人と接することがストレス発散になるが、ぼくはどちらかというと自分の世界に入り込んで集中している時間が好きなのだ。
そして、ぼくは80点で割と満足できてしまう性格だ。たとえば一日のなかでやりたかったことのうち、8割ができていれば「よしよし。今日はそこそこ良い一日だった」と思える。
しかし妻は違う。80点を取ってしまったら、残りの20点が取れなかったことを悔み、落ち込み、反省する。
仮に100点が取れたとしても、「もっと上手くできたはず。どうしたら120点が取れただろうか」と考える。100点でも、彼女は満足ができないのだ。
彼女は自分を許してあげられない
ぼくから見て、妻のそういったストイックな姿勢を尊敬しており、羨ましいと思っている。
この性格が彼女の原動力で、だからこそ真面目で、勤勉で、物事の吸収が早く、賢く、成長が速い。なにごとも普通の人よりも上手にこなせて、隙がない。
真剣な話、ぼくが外で働きに出るよりも、彼女が仕事をして、ぼくが主夫をしているほうが、世帯収入は安泰だろう。
しかし一方で、苦しい生き方にも見える。
ぼくからみて、妻は本当にいつも、よくやってくれている。家のことも、ぼくのことも、そして自分のことも、すべてにおいて思慮深く、思いやりがあり、一生懸命だ。
ぼくが彼女に不満をもったことはない。
それでも彼女からは「ごめんね、きょうの夕飯、適当で」とLINEが入っていたりする。家に帰って食卓をみれば、なんてことはない、いつものとても美味しい食事だ。
外で買ってきたお惣菜が一品紛れていることが、彼女は許せないのだろうが、いやはやそんなことをぼくは気にしない。なんなら、なにも言わずにスッと紛れ込ませてくれたってよかったのだ。
ぼくからみて100点でも、彼女にとっては60点。
うーん。。。嬉しいんだけど、もっと自分のことを許してあげてほしいなぁって思うのだ。だって彼女は、ぼくにとっては100点なんだから。
——という話を妻にしたら、妙に納得していた。自分ではあまり気がついていなかったみたいだし、ぼくみたいな考え方があることにも意外と気づけていなかったらしい。
この話をしても、彼女は別に大きくは変わらない。自分の気持ちを楽にさせるため、言葉では「100のうち70。ぜんぶできなくても大丈夫」と言い聞かせてはいるが、彼女の本質はやはり「100やりたかったなー」と思うのだ。
でも、ぼくがいる。ぼくが彼女の70を見ているから、ぼくが彼女に120点をあげればいい。
あー、だからぼくらは夫婦になったのか。
彼女が許せない分を、ぼくがいっしょに喜ぶために、ぼくらは二人になったのかもしれない。
ぼくも自分が好きではなかった
ぼくは自分の甘ったれた性格が、あまり好きではなかった。100できなかったのに、80しかできなかった自分を軽く許し、甘やかしている。
でも妻とこの話をしたときに、彼女がゴールの100に目を向けているのに対し、自分が80のほうに目を向けていることに気がついた。
つまり、妻は目標達成型なのだ。ゴールを設定し、そこに向けて一生懸命に努力をし、結果を掴み取ったときに初めて、彼女は満足を得られる。
一方のぼくは、過程を楽しむ型なのだ。ゴールは設定せず、向かう方向だけ決める。そしたら、いま自分の目の前にあることを一生懸命にこなし、楽しむ。
その結果が、どんなところに辿り着くかわからなくたって構わない。そこから見える景色が、ぼくにとっては素晴らしい。
過程を楽しむ型のぼくは、自分に対して甘い。できなかったことに目をつぶり、できたことばかりに満足している。そんなとき、妻から叱咤激励が飛んでくるのだ。
「キミならもっとできるよ。ほら、こういうこともできたんじゃない?もっとこうした方が、いい結果が出るんじゃないかな」
あー、だからぼくらは夫婦になったのか。
ぼくが自分を甘やかしてしまう分、彼女がぼくの背筋を伸ばしてくれる。シャンとした気持ちにしてくれる。
それでもぼくは結果は求めない。そこに行くまでの過程を存分に楽しみ、行き着く先を楽しみにしている。しかし妻がいることで、今まで辿り着けなかった新しい景色に巡り会えることが、ぼくにとって嬉しい。
100点で満足できないちゃんへ
世の中には、「100点で満足できないちゃん」と「80点で許せるくん」がいるらしい。
「100点で満足できないちゃん」へ、ぼくから伝えたいメッセージは、もっと自分を許してあげてほしいってこと。
「100点で満足できないちゃん」は、求めるレベルがとっても高い。それは本当に素晴らしいんだけど、できなかったことを責めないで欲しいんだ。
積み木を重ねて、自分が作りたかったお城ができなかったとしても、途中まで積んだ「成果」はゼロじゃないよ。時間をかければ、もっと高いお城も作れるかもしれない。また後日、続きからはじめればいいさ。
だから、もっと自分を許してあげてほしいな。
「80点で許せるくん」へのメッセージは、あれだ。お前はもっと頑張れ。