マーケティングにおいて、ターゲットとペルソナがしばしば混同されて語られるケースがある。事業においても、ターゲットの策定のみが行われて、ペルソナは作られないままであることも、実は珍しくない。
しかしこの2つは明確に違うものであり、マーケティングにおいてはペルソナの設計は必要不可欠なものである。
ターゲットとペルソナは役割や目的が違う
わかりやすいように、ターゲットとペルソナ、それぞれについて「概要」「目的」「成果物の例」の3点を比較しよう。
ターゲット | ペルソナ | |
---|---|---|
概要 | 製品やサービスを購入する可能性が高いと考えられる特定の顧客グループを指す。 この定義には、デモグラフィック(年齢、性別、収入など)、地理的(居住地)、心理的(価値観、興味)など、様々な要素が含まれる。 | ターゲット市場内の架空の個人であり、理想的な顧客を具体的に表したもの。 ターゲット市場の特性を細分化し、より個人的かつ具体的な特徴、ニーズ、行動パターンを反映します。 |
目的 | マーケティングの努力を集中させるべき顧客群を特定すること。 マーケティングリソースの最適化と、効果的なコミュニケーション戦略の開発が可能となる。 | ターゲット市場内の個々の顧客に深い共感と理解を持つこと。 製品開発、コンテンツ作成、カスタマーサービスなど、顧客に直接関わるあらゆる面でパーソナライズされたアプローチが可能になる |
成果物の例 | 年齢が30〜50歳の都市部に住む中間所得層の男女をターゲットとした市場セグメント。 彼らは健康とウェルネスに関心があり、スポーツ活動に積極的。 | 「ヘルシーハリー」と名付けられたペルソナ。42歳の男性で、都市部に住み、IT企業で働く。 週末はローカルのランニングクラブに参加し、健康的な食生活に関心がある。 新しいフィットネスギアや栄養補助食品に投資する傾向があり、健康情報を得るためにソーシャルメディアやブログを頻繁に利用する。 |
ペルソナを作りたがらない理由
ペルソナを作らず、ターゲットに向けてマーケティング施策を行うケースは少なくない。その理由は、
- 一個人に向けて行った施策が、ターゲット市場全体に影響を及ぼせるのか?
という懸念が解消されないからだろう。そしてもうひとつ、
- ターゲットに向けて行った施策であれば、(その中にペルソナも含んでいるのだから)ペルソナにも十分に有効なはずだ(だからターゲットさえあれば十分である)。
と考えるからであろう。
ペルソナを作るには、非常に労力が必要だ。ターゲットとして定めた市場について、より深く調査・分析を行わなければならない。ときにはインタビューを行ったり、プロトタイプテストを行ったりする。
そんな労力をかけるぐらいなら「ターゲット」というより包括的で広範囲な相手に対して施策を打ったほうが、広く、そして多くの成果が得られる。と、考えるのが一般的だ。
しかし結論から言って、これは間違いである。
施策を行うためには、それを届ける相手が誰なのかを知らなければならない。ユーザーを具体的に、そして鮮明にイメージできなければ、効果的なマーケティング施策は打てないのである。
ペルソナへ行った施策がターゲットに波及する理由
ペルソナに基づいて施策を行う場合、たしかにその施策が特定の個人や非常に限定されたグループに向けられることになる。このアプローチによるターゲット全体への影響力について懸念される気持ちはわかる。
しかし、適切に実施されたペルソナベースのマーケティング戦略は、実際にはターゲット市場全体に対しても大きな影響を及ぼすことができる。その理由は以下の通りだ。
1. 共通のニーズと痛点
ペルソナは、ターゲット市場内の特定のセグメントを代表するもの。
ペルソナに対して行う施策は、そのペルソナが抱えるニーズや痛点を反映しているが、これらのニーズや痛点は同じターゲット市場内の他の個人にも共通していることが多い。
2. エンゲージメントの波及効果
特定のペルソナに深く響くコンテンツは、高いエンゲージメントを生み出す傾向がある。
SNSなどのプラットフォームでは、エンゲージメントの高いコンテンツはより広範囲に拡散され、ターゲット市場の他のセグメントにも届きやすくなる。
3. インサイトの積み重ね
ひとつのペルソナに向けた施策から得られる学びやインサイトは、他のペルソナやターゲット市場全体に対する施策にも活かすことができる。
特定のアプローチがうまくいった場合、その成功要因を分析し、他のセグメントにも適用することで、より広範な影響を生み出すことが可能。
4. マーケティングメッセージの最適化
ペルソナに基づいた施策から得られる具体的なフィードバックとデータを再利用すれば、ターゲット市場全体に対するアプローチの効果を高めることができる。
特定のペルソナに響いた言葉遣いや画像などの要素は、他のマーケティングキャンペーンやコミュニケーション戦略にも応用可能となる。
5. 広範囲へのアピール
はじめは限定的なグループに焦点を当てたコンテンツやキャンペーンも、時間をかけてターゲット市場全体に影響を与えることがある。
ペルソナに基づいて作成されたストーリーやメッセージが共感を呼び、その話題が広がることで、より多くの人々にリーチすることとなる。
また、特定のペルソナに特化した施策が口コミを通じて広がることで、ブランドの認知度と関心が全体的に向上する。
6. 持続可能な関係の構築
ペルソナに焦点を当てることで、顧客とより深く、持続可能な関係が構築できる。
ペルソナを通じて得られる洞察を活用し、顧客の変化するニーズに柔軟に対応することで、長期的な顧客ロイヤルティを築くことが可能。これは、ターゲット市場全体の満足度とエンゲージメントの向上にも繋がる。
ペルソナを作らず、ターゲットに向けて施策を行ってはいけない理由
最後に、ペルソナを作らず、ターゲットに向けて施策を行った場合、どのようなデメリットがあるかを示しておこう。
1. メッセージの一般性と非効率性
メッセージが一般的になりすぎて、誰にでも当てはまるような内容になりがち。その結果、誰にとっても魅力的ではあるけれども、誰にとっても特別ではないメッセージになるリスクがある。
広範囲にわたる一般的なメッセージは、特定のニーズや痛点に対して響かない。そのため、マーケティングリソースの浪費につながる可能性がある。特に、高い競争が存在する市場では、明確な差別化要因なしに顧客の注意を引くことが難しい。
2. エンゲージメントの欠如
ペルソナに基づくマーケティング施策は、個人のニーズ、関心事、好みに合わせてパーソナライズされています。これにより、顧客との高いエンゲージメントが期待できる。
一方で、ターゲット市場全体に対する一般的なアプローチでは、このようなパーソナライズが欠けているため、顧客の関心を引くことが難しくなる。
3. コンバージョン率の低下
一般的なターゲット市場に向けたアプローチでは、顧客の具体的なニーズに対応していないため、コンバージョン率が低下する懸念がある。
4. 顧客理解の浅さ
ペルソナの作成プロセスを通じて、企業は顧客について深く理解する機会を得る。この理解は、製品開発、顧客サービス、コンテンツ作成など、ビジネスのあらゆる側面において価値をもたらす。
ペルソナを作成しないと、このような深い顧客理解を逃すことになり、結果として顧客との関係構築において不利になってしまう。
あとがき
誰にでも刺さるような耳障りの良い言葉は、結局のところ、誰の記憶にも残らないということだ。